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鹿児島地方裁判所 平成10年(ヨ)256号 決定 2000年10月10日

債権者

株式会社ほっかほっか亭

右代表者代表取締役

木佐貫千代子

右代理人弁護士

井上治典

井上逸子

債務者

株式会社プレナス

右代表者代表取締役

塩井賢一

右代理人弁護士

髙田昌男

金井高志

主文

一  債権者と債務者間において、債権者が、株式会社ほっかほっか亭九州地域本部と鹿児島食品サービス株式会社間の昭和六一年五月一日付け地区本部契約上の鹿児島地区本部の地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、別紙店舗一覧表一記載の店舗と「ほっかほっか亭」加盟店契約を締結してはならない。

三  債務者は、鹿児島県内において、「ほっかほっか亭」加盟店を募集し、又は「ほっかほっか亭」直営店を開設してはならない。

四  債務者は、鹿児島県内において、債権者が「ほっかほっか亭」加盟店を募集することを妨害してはならない。

五  債権者のその余の申立てをいずれも却下する。

六  申立費用は、債務者の負担とする。

理由

第一  申立て

一  債権者と債務者間において、株式会社鹿児島食品サービスと債務者間の平成一〇年五月一日付け本部契約により、債権者は、右契約上の鹿児島地区本部である地位を仮に定める(以下「第一申立て」という。)。

二  債務者は、別紙店舗一覧表一記載の加盟店と加盟契約を締結してはならない(以下「第二申立て」という。)。

三  債務者は、別紙店舗一覧表二記載の加盟店との加盟契約を解約し、債権者が同加盟店と加盟契約を締結することを妨害してはならない(以下「第三申立て」という。)。

四  債務者は、本決定告知の翌日から別紙加盟店目録二記載の加盟店との加盟契約を解消するまでの間、一日につき金九万円の割合による金員を支払え(以下「第四申立て」という。)。

五  債務者は、鹿児島県内において、ほっかほっか亭加盟店を募集し、ほっかほっか亭弁当販売店を開設してはならない(以下「第五申立て」という。)。

六  債務者は、債権者が鹿児島県内においてほっかほっか亭加盟店を募集することを妨害してはならない(以下「第六申立て」という。)。

第二  事案の概要

一  本件は、持ち帰り弁当のフランチャイズ・システム(チェーン)のフランチャイザーである株式会社ほっかほっか亭総本部の「九州地域本部」の地位にある債務者が、債権者との間のフランチャイズ契約(債権者を「鹿児島地区本部」とする旨の地区本部契約)について、平成九年一〇月二七日ころ、債権者に対し、平成一〇年四月三〇日の期間満了後の更新を拒絶する旨の意思表示をしたため、債権者が、右意思表示は無効であるとして、右地区本部としての地位保全及び前記第一の各仮処分を求めた事案である。

二  主要な争点

1  債務者のした更新拒絶の意思表示は有効か。

2  債権者申立ての各仮処分について、保全の必要性があるか。

第三  当裁判所の判断

一  本件各疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、債権者・債務者間の地区本部契約に関しては、本件以前から紛争が生じており、既に、最高裁判所の判断を経た数件の確定判決が存在していることが認められる。これらの確定判決の既判力は、事実審の口頭弁論終結時点における訴訟物の存否の判断自体について生ずるにすぎないが、暫定性、迅速性等を特質とし、立証も疎明で足りるとされる民事保全手続においては、確定判決の理由中の判断(特に、本件では、上告審での判断も経ている。)についても、これを覆すに足りる特段の事情がない限り、尊重するのが相当であると解される。

二  本件紛争と関連する主要な確定判決

1  甲五、六、四三、審尋の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 債権者は、債務者が昭和六三年七月にした地区本部契約の解除及び同年八月にした同契約の更新拒絶はいずれも無効であると主張し、債務者を被告として、債権者が鹿児島地区本部たる地位にあることの確認、債権者・加盟店間の契約解除と債務者・加盟店間の新規契約締結のための加盟店に対する発言及び強要の禁止を求めて訴えを提起した(鹿児島地裁昭和六三年(ワ)第五四三号事件)。これに対し、債務者も、右解除及び更新拒絶は有効であると主張し、債権者及び株式会社鹿児島食品サービスを被告として、「ほっかほっか亭」の標章の使用の禁止、「ほっかほっか亭」と表示しての弁当等の製造・販売、加盟店募集の禁止等を求めて訴えを提起した。(同庁平成元年(ワ)第三四一号事件)。

(二) 鹿児島地方裁判所は、右各事件を併合の上、平成四年八月二八日、債権者の請求をすべて棄却し、債務者の請求をすべて認容する判決を言い渡したため、債権者及び株式会社鹿児島食品サービスが控訴し(福岡高裁宮崎支部平成四年(ネ)第一五九号事件)、債務者も仮執行宣言を求めて附帯控訴した(同庁平成六年(ネ)第一二六号事件)。

(三) 福岡高等裁判所宮崎支部は、平成八年二月一四日、口頭弁論を終結し、同年一一月二七日、右第一審判決を取り消し、債権者の請求をほぼすべて認容し、債務者の請求をすべて棄却する判決を言い渡した(以下「①判決」という。)ため、債務者が上告した(最高裁平成九年(オ)第一〇四六号事件)。

(四) 最高裁判所は、平成一二年四月二五日、右上告を棄却する判決を言い渡した。

2  甲七、一九、四四、審尋の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 債権者は、債務者が、昭和六三年七月、債権者の加盟店に来店又は電話して、債務者との新規加盟店契約の締結を強要し、同年八月、債権者の加盟店・直営店七五店舗のうち三三店舗と新規加盟店契約を締結したと主張し、債務者を被告として、物品等の売上・ロイヤリティー・加盟店契約更新料に関する逸失利益、慰謝料等の合計二億三七二五万五八三一円及び遅延損害金の支払を求めて提訴した。(鹿児島地裁昭和六三年(ワ)第五四二号事件)。

(二) 鹿児島地方裁判所は、平成四年八月二八日、債権者の請求を一部認容し、三二〇一万二七五九円及び遅延損害金の支払を命ずる判決をしたため、債権者、債権者ともに控訴した(福岡高裁宮崎支部平成四年(ネ)第一五八号、同年(ネ)第二〇一号事件。なお、債権者は、控訴審において、請求を追加・拡張した。)。

(三) 福岡高等裁判所宮崎支部は、平成八年二月一四日、口頭弁論を終結し、同年一一月二七日、右第一審判決を取り消し、二億三三五〇万四〇三一円及び遅延損害金の支払を命ずる判決を言い渡した(以下、「②判決」という。)ため、債務者が上告し、債権者も附帯上告した(最高裁平成九年(オ)第一〇四四号、第一〇四五号事件)。

(四) 最高裁判所は、平成一二年四月二五日、右上告及び附帯上告を棄却する判決を言い渡した。

三  本件紛争の経緯等

1  ①判決及び②判決の認定事実(これらを覆すに足りる特段の事情は認められない。)

(一) 株式会社ほっかほっか亭総本部は、株式会社ほっかほっか亭九州地域本部(以下「九州地域本部」という。)との間で、昭和五五年五月一〇日、九州地域本部を「ほっかほっか亭九州地域本部」とする旨の地域本部契約を締結した。

(二) ほっかほっか亭鹿児島地区本部契約の締結

九州地域本部は、南日本事務機株式会社(以下「南日本事務機という。)との間で、昭和五五年一一月二一日、南日本事務機を「ほっかほっか亭鹿児島地区本部」とする旨の地区本部契約(以下、「本件契約」という。)を締結した。その内容のうち、本件に関係するものは、次のとおりである。

(1) 南日本事務機の地区本部としてのテリトリーを鹿児島県内一帯とし、地域本部は、南日本事務機に対し、テリトリー内に展開する直営店にほっかほっか亭の名称とマークを使用させ営業させる権利及びテリトリー内の加盟店(文言上は「連盟店」)希望者に対して個別にフランチャイズ権を与える権利を与える。

(2) 南日本事務機は、地域本部に対し、次の金員を現金で支払う。

ア ライセンス料 三〇〇万円

イ ノウハウ使用料 加盟店一店舗につき三〇万円

ウ ロイヤリティー 直営店・加盟店一店舗につき月額一万八〇〇〇円

(3) 本契約の有効期間は、本契約の効力発生の日から五年間とし、契約期間満了の一八〇日前に本契約当事者双方から特別の申出のない限り、自動的に更新するものとする。

(三) 本件契約締結後の当事者の変動

(1) 南日本事務機の商号は、昭和五六年五月三〇日、「鹿児島食品サービス株式会社」に、平成三年一月四日、「株式会社鹿児島食品サービス」に変更された(以下、いずれも「鹿児島食品サービス」という。)。

(2) 鹿児島食品サービスの代表取締役木佐貫晶裕は、昭和五七年七月六日、同人が代表取締役であり、本店所在地も同社と同一で、いわゆる休眠会社であった「株式会社フジ通商」の商号を「株式会社ほっかほっか亭」に変更し、その商号を冠した債権者名義で、当時、鹿児島県内において、「ほっかほっか亭」の類似標章を使用して弁当等の製造販売をしていた業者に対し、「ほっかほっか亭」類似標章の使用差止等の仮処分命令を申し立て、第一審、控訴審とも、ほぼ債権者の主張どおり認められた。その後、木佐貫は、「鹿児島食品サービス」と「株式会社ほっかほっか亭」の名称を混在して使用したが、九州地域本部及び債務者は、何らかの異議はもちろん、問い合わせすらせず、鹿児島食品サービスが地区本部契約上の地位を維持しつつも、債権者も地区契約上の地位にあることを黙認した。よって、そのころ、九州地域本部との間で、鹿児島食品サービス及び債権者の両者が、地区本部たる地位を持つという非典型的、並行的な契約関係が成立した。

(3) 債務者(なお、①判決の認定中にはないが、審尋の全趣旨によれば、当時の商号は、「株式会社太陽事務機」又は「株式会社タイヨー」であったことが窺われる。)は、昭和六二年六月三日、九州地域本部を吸収合併した。

(四) 本件契約の第一回更新

九州地域本部は、本件契約の期間が昭和六〇年一一月二〇日に満了するに当たり、本件契約の始期と宮崎地区本部及び沖縄地区本部との地区本部契約の始期とを統一するため、本件契約の期間を昭和六一年四月三〇日まで延長した上で、同年五月一日、本件契約を更新し、その際、契約期間を五年間から三年間に短縮した。これについては、鹿児島食品サービスも異存がなかった。

(五) 債務者による解除及び更新拒絶

(1) 債務者は、債権者らに対し、昭和六三年七月六日付け書面により、本件契約を解除する旨の意思表示をし、右意思表示は、同月七日、債権者らに到達した(以下「本件解除」という。)。

(2) 債務者は、債権者らに対し、同年八月二五日付け書面により、平成元年四月三〇日の期間満了後の本件契約の更新を拒絶する旨の意思表示をし、右意思表示は、そのころ、債権者らに到達した(以下「本件旧更新拒絶」という。)。

(六) 本件解除時点において、債権者のもとにある鹿児島県内の店舗は七五店舗(うち加盟店は六五店舗、直営店は一〇店舗)であったが、債務者は、昭和六三年七月四日ころから、債権者ら傘下の加盟店に対し、「鹿児島食品サービスに契約違反があったので債務者との本件契約を解除した。」、「地域本部と新規に加盟店契約を締結しなければ、ほっかほっか亭の商標、看板ははずさなければならず、食材、包材の供給をしない。」等と喧伝し、債権者らとの加盟店契約の解除と債務者との加盟店仮契約の締結を唆した。その結果、同年八月末日までに、別紙店舗一覧表二記載の三三店舗が、債務者と加盟店仮契約を締結し、債権者らとの加盟店契約の解約申入れをした。

2  本件解除及び本件旧更新拒絶の有効性についての①判決の判断

①判決は、本件解除について、昭和六三年七月当時、債務者、債権者間に、債務者の債権者に対する解除権を発生させるほどの信頼関係を破壊する事情があったとは認められない旨、本件旧更新拒絶について、公平の観念に照らして、信義則上許されないものである旨それぞれ判示し、債権者が、鹿児島食品サービスと債務者との間で締結された昭和六一年五月一日付けフランチャイズ契約に基づく鹿児島地区本部たる地位を有することを確認した(甲五、六)。

3  本件解除及び本件旧更新拒絶後の債務者・債権者間の交渉状況

(一) 債権者は、株式会社タイヨー(債務者の旧商号。以下「タイヨー」という。)を相手方(債務者)として、仮処分命令を申し立て(鹿児島地裁平成元年(ヨ)第一一七号事件)、平成元年四月二四日、債権者、タイヨー及び利害関係人鹿児島食品サービス間で、和解が成立した。(甲一五、審尋の全趣旨。以下「本件和解一」という。)。その条項のうち、本件に関係する主要なものは、次のとおりである。

(1) 債権者らは、鹿児島地方裁判所昭和六三年(ワ)第五四三号地位確認請求事件の判決が確定するまで、「ほっかほっか亭知覧店」及び「ほっかほっか亭国分東店」以外の加盟店又は直営店を開設せず、既存の加盟店又は直営店を既存の場所より五〇〇メートル以上離れた地点に移転しない。

(2) タイヨーは、(1)の事件の判決が確定するまで、鹿児島県下において、鹿児島県大島郡沖永良部島の一店を除いて加盟店又は直営店を開設せず、既存の加盟店又は直営店を既存の場所より五〇〇メートル以上離れた地点に移転しない。

(3) 債権者ら及び債務者(これらの者の加盟を含む。)は、互いに他方を誹謗し、差別するような宣伝活動をしない。

(4) 債権者は、タイヨーの承諾なく新商品を発売しない。

(5) タイヨーは、(1)の事件の判決が確定するまで、鹿児島県下において、自己を表示する名称として「ほっかほっか亭鹿児島支部」の名称を使用することができる。

(二) 平成八年一一月二七日、債務者敗訴となる①判決及び②判決が言い渡された。

(三) 債務者は、債権者らに対し、平成九年一〇月二七日付けの書面により、平成一〇年四月三〇日の期間満了後の本件契約の更新を拒絶する旨の意思表示をし、右意思表示は、そのころ、債権者らに到達した(甲四、審尋の全趣旨。以下「本件新更新拒絶」という。)。

(四) 債権者らは、平成一〇年四月一日、債務者を相手方(債務者)として、仮処分命令を申し立て(鹿児島地裁平成一〇年(ヨ)第一五六号事件)、同月二七日、次の内容の和解が成立した(甲一、審尋の全趣旨。以下「本件和解二」という。)。

(1) 債権者らと債務者は、本件和解一の条項を遵守する。

(2) 債権者らと債務者は、債権者ら及び債務者の加盟店(債権者らにつき四九店舗、債務者につき三三店舗)の営業店舗数につき、最高裁判所平成九年(オ)第一〇四六号の判決があるまで、互いに店舗数の現状固定を確約する。

(五) 債務者は、本件和解二の成立と相前後して、平成一〇年四月二五日付け「お知らせ」と題する書面を加盟店に送付した(甲二、審尋の全趣旨)。これには、本件旧更新拒絶により、本件契約が平成元年四月三〇日をもって終了したか否かについて、最高裁判所の判決が出ていないため、当該裁判とは別に、本件新更新拒絶を行い、平成一〇年四月三〇日をもって本件契約を終了させることにした旨、これにより、債権者らは、最早「ほっかほっか亭鹿児島地区本部」ではなくなり、「ほっかほっか亭」の標章を使えなくなる一方で、債務者は鹿児島地区に出店できるものと考えている旨等が記載されていた。

(六) 債務者は、同年六月二二日、債務者を相手方(債務者)として、本件仮処分命令を申し立てた。

四  本件新更新拒絶の効力について

本件新更新拒絶は、①判決の口頭弁論終結日である平成八年二月一四日より後にされたものであるから、仮に、その効力を認め、本件契約が平成一〇年四月三〇日の期間満了をもって終了した旨認定したとしても、①判決の既判力に反するものではない。

しかしながら、①判決が、本件旧更新拒絶を公平の観念に照らして、信義則上許されない旨判断した前提となった諸事情、すなわち、「ほっかほっか亭総本部はもとより、地域本部の債務者も、契約上、地区本部である債権者らに対してなすべきことが前提とされているサービス、特に、食材の調達及び供給並びに消費者のニーズに応える商品開発等について、能力・体制が欠けていたため、地区本部である債権者らが鹿児島県内においてほっかほっか亭フランチャイズシステムの維持・拡大を図るために独自に食材の調達及び供給ルートの確立並びに消費者のニーズに応える商品開発の努力をしなければならなかったこと、鹿児島県内におけるほっかほっか亭の商号、商標、サービスマーク等のイメージの定着及び普及は専ら地区本部である債権者らの貢献によるものであること、地域本部による契約更新の拒絶が認められると、地区本部である債権者らがほっかほっか亭の商号、商標、サービスマーク等が使用できなくなるだけでなく、債権者らの長年にわたる投資と努力の結果築き上げた加盟店が鹿児島地区本部との加盟店契約を解消して、地域本部である債務者との間で加盟店契約を締結し、地区本部である債権者らの築き上げた基盤を地域本部である債務者が労せず獲得するという結果になりかねないこと」、「本件地区本部契約は、契約期間満了の一八〇日前に当事者双方から特別の申出のない限り、自動更新となる建前であり、更新が原則となっていること」(いずれも、当事者の呼称以外は、①判決の判示どおり)は、本件においても、基本的に妥当するものと解され、本件全疎明資料によっても、また、本件新更新拒絶は、本件旧更新拒絶から九年、本件契約の当初の締結日(昭和五五年一一月二一日)からは一七年五か月余り経過した後にされたものであることを考慮してもなお、本件旧更新拒絶と異なり、本件新更新拒絶については、信義則上許容されるものであると認めるに足りない(①判決は、昭和六三年にされた本件解除及び本件旧更新拒絶の有効性が主たる争点となったものではあるが、同判決が最終的に確定したのは、平成一二年四月であることも考慮すべきであろう。)。そうすると、本件新更新拒絶は無効であると解さざるを得ない。

五  各仮処分の申立ての必要性等について

1  第一申立て(地位保全)について

右のとおり、本件新更新拒絶は無効であると解され、そのほかに、本件契約の終了原因事実が存在することについての主張及び疎明が認められない以上、本件契約は平成一〇年四月三〇日以降も自動更新されていることが一応認められる。

そして、前記のとおり、債務者が、平成一〇年四月二五日付け「お知らせ」と題する書面(本件新更新拒絶により、平成一〇年四月三〇日をもって本件契約を終了させることにした旨、これにより、債権者らは、最早「ほっかほっか亭鹿児島地区本部」ではなくなり、「ほっかほっか亭」の標章を使えなくなる一方で、債務者は鹿児島地区に出店できるものと考えている旨等が記載されたもの)を加盟店に送付するなどしていること等を総合すれば、債権者について、本件契約上の鹿児島地区本部としての地位保全を認める必要性が認められる。

ただし、契約をその締結日で特定する場合、当事者の意思表示が合致した日を締結日とすべきであり、当事者双方からの特別の申出がないまま自動更新されたような場合は、自動更新された日ではなく、基本契約の締結日を示すのが相当であると解される。よって、本件契約についても、昭和五五年一一月二一日付けとすることも考えられるが、本件契約の更新という形ではあれ、九州地域本部(債務者に吸収合併される以前)と鹿児島食品サービス間で、新たに契約期間の短縮等が合意された昭和六一年五月一日を締結日として示すのが相当である(なお、①判決も、契約当事者の表示は異なるが、同様の観点から、締結日を特定したものと解される。)。

2  第二ないし第六申立てについて

(一) 審尋の全趣旨によれば、現在、債権者が別紙店舗一覧表一記載の各店舗との間で、債務者が別紙店舗一覧表二記載の三三店舗との間で、それぞれ加盟店契約を締結していることが認められる。

(二) 本件契約は、株式会社ほっかほっか亭総本部の「九州地域本部」の地位にある債務者が、債権者に対し、その直営店で「ほっかほっか亭」の名称とマークを使用して営業する権利を付与するとともに、「鹿児島地区本部」として、そのテリトリーである鹿児島県内の加盟店希望者と加盟店契約を締結する権利を独占的に付与する代わりに、債権者から、ライセンス料、ノウハウ使用料及びロイヤリティーを徴収するという趣旨のものであり、その地区本部契約書(甲八)上に明文の条項はなくとも、当然に、債権者のテリトリーとして定めた鹿児島県内において、債務者が債権者と競合関係に立つことは予定されておらず、債務者が、地区本部を介することなく、直接加盟店契約を締結することは禁止されていると解すべきである(一般の加盟店希望者に対する関係で右のとおり考えられる以上、債権者が現に加盟店契約を締結している加盟店との間で、債務者が、重ねて、又は当該契約を解約させた上で、新規に加盟店契約を締結することは、より強く禁止されていると解される。)。また、明文の条項はなくとも、債務者が債権者と加盟店希望者との交渉を妨害してはならないことも当然である。

そして、前記のとおり、債務者が本件契約に反して、別紙店舗一覧表二記載の三三店舗と直接加盟店契約を締結していること、前記平成一〇年四月二五日付け「お知らせ」と題する書面を加盟店に送付していること等を総合すれば、第二、第五及び第六申立ては、いずれも必要性が認められる(なお、債務者は、本件契約には、債権者らの債務者に対するこれらの不作為請求権は規定されておらず、債権者には被保全権利がない旨主張するが、①判決は、主文四項で、債務者は、加盟店に立入って債権者の加盟店間の契約の解除並びに右に代わる債務者と加盟店間の新規ほっかほっか亭フランチャイズシステムチェーン契約の締結を強要してはならない旨判示し、これは、上告審においても維持されている。)。

(三) 第三申立ては、債務者に対し、①債務者と別紙店舗一覧表二記載の三三店舗との間の各加盟店契約の解約を求める申立てと、②債権者による右三三店舗との加盟店契約の締結についての妨害禁止を求める申立ての二つからなるものである。

そこで、まず、①について検討するに、前記のとおり、債務者が別紙店舗一覧表二記載の三三店舗と直接加盟店契約を締結したことは、本件契約に違反する行為であるとはいえ、右加盟店契約に関しては、債権者は第三者であるところ、契約の第三者が、当該契約の当事者に対して、その解約を請求する権利は、実体法上認められておらず、本件の被保全債権、ひいては、本案の訴訟物として想定できない。なお、一般に、本案の訴訟物自体からは直接的に導き出せない処分であっても、例外的にそれが仮処分の目的を達するために必要にして適切なものであれば許容される余地もあるとはいえるが、個別の加盟店契約の解約を命ずる仮処分については、債務者がこれを任意に履行する可能性、その実効性等からいって、これを許容することは困難である。よって、第三申立ての①は認められず、これの間接強制としての金員の支払を求める仮処分の申立て(第四申立て)もまた、認められない(なお、第四申立てについては、損害賠償金の仮払い仮処分として考慮する余地もあり得るが、本件全疎明資料によっても、その必要性は認められない。)。

また、第三申立ての②は、債務者との間で加盟店契約を締結している前記三三店舗に対し、債権者が「鹿児島地区本部」として、加盟店契約を締結するよう働きかけた場合に、債務者がそれを「妨害」することの禁止を求めるものであるが、債務者と右三三店舗の間には、本件契約には反するものの、当事者間では一応有効な加盟店契約が存在する以上、契約当事者としての債務者の行為と右「妨害」行為との峻別が困難であり、右申立ての必要性、実効性は認められない。

六  よって、主文のとおり決定する。

(裁判官・平田豊)

別紙店舗一覧表<省略>

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